事業内容

本学を取り巻く状況と課題

本学の立地する多摩地域は、居住者が急速に高齢化するとともに都心回帰現象もみられ、地域の活性化が大きな課題となっている。

地域を象徴する多摩ニュータウンは、希薄なソーシャルキャピタルや高齢者に適さない住環境が問題とされているが、活力低下はニュータウンのみならず地域全体に対して指摘されており、これが大都市郊外型高齢化の課題と捉えられる。

急速な“異次元の高齢化”が進むとともに、高齢者の姿も変わってきている。医療技術が進歩し身体的健康が保たれる一方で、精神的・社会的な心の健康問題がクローズアップされている。大都市郊外型高齢化に対して心の健康維持を図ることが、社会科学系大学として本学が取り組むべき課題である。

課題分析と研究テーマ設定

大都市郊外を寂れゆく無味乾燥な地域と捉える見方が一般的であるが、これは先入観に囚われた部分的理解に過ぎず、この地域の実態も地域が持つ大いなる可能性も見逃している。この地域は、高度成長を牽引し退職後も活力を持ち生活する高学歴高齢者(本研究ではアクティブ・シニアと呼ぶ)が集積する特異な地域である。また高齢世代や子育て世代、若者世代が一定の厚みを持ち存在し、教育・経済・文化水準も高く、大都市圏としての「中心性」と都心からの「辺境性」を併せ持つことが創造的な風土を育んできた。緑豊かな自然をはじめとする観光資源や近隣購買力が存在し、圏央道開通や将来のリニア中央新幹線により総合交通体系も劇的に変化を遂げつつある。本学は、リニアの起点である品川に大学院を置き、中間駅である相模原を含む広域多摩地域に2学部を置く。

総合交通体系の発展による変化とベッドタウンの超高齢化が関わり合うことで地域に起こる問題と解決策に取り組むことが本学に求められる。

大都市郊外の特性を典型的に保持する多摩地域に焦点を当て、本学の資源である経営実学・情報技術の応用・観光ホスピタリティの知見と研究力を多面的に活用することにより、人々が心の健康を保ち、暮らしが豊かで幸福を感じ、活力がある地域の実現を導くことが期待される。特に、高齢者の心の健康は社会参画により大きく向上するとの認識のもと「大都市郊外型高齢化へ立ち向かう実践的研究-アクティブ・シニア活用への経営情報学的手法の適用-」をテーマとする研究を遂行する。

本研究は、大都市郊外という圏域設定、地域に集積する活力ある高齢者に焦点を当てるという対象設定、社会科学系大学として高齢者の社会参画や創業を促す経営学的手法、活力ある高齢者から学生への伝承・世代継承への着目、学会プロジェクトを通じて産官学民の連携を実現する実践性、経営学・情報技術・観光ホスピタリティを統合する学際性等に独自性を有する。

研究テーマの内容

①課題解決型研究

大都市郊外地域の抱える課題解決の実践研究。

  • 自治体・企業との共同研究「健康まちづくりの実現」に経営的手法で地域高齢者の参画を促す研究
  • 交通・防災・移動流通等の都市問題に経営学的観点から取り組む研究
  • 包括的地域問題に対して地域企業・行政の産業組織化を促進する研究

②事業創造型研究

少子高齢化と総合交通体系の進化という地域の変化の中で、新たな事業を創造し地域を活性化する実践研究。

  • 高齢者の創業支援や観光事業の社会実験研究
  • 地域動向のビッグデータ分析研究
  • 地域高齢者のディープデータ調査
  • 金融機関との共同研究「創業実態調査」

③世代継承型研究

都市と田舎の対流を促して地域の高齢世代が社会参画意識を抱く機会を提供し、その経験を若者世代に伝えていく実践研究。

  • 南アルプス市と連携した多摩地域高齢者への第一次産業参画機会の提供
  • 高齢者ライフヒストリーのデータ化

期待される成果

アクティブ・シニアのコミュニティ化が促進され社会参画に消極的な高齢者層(本研究ではマイルド・シニアと呼ぶ)が活性化することで、高齢化に伴う活力喪失が解決され、高齢者の健康維持や暮らしやすい住環境が実現する。

また、新規事業により、住民を巻き込んだ観光ホスピタリティ・サービスが勃興する。高齢者には、生産的社会活動への参画や自らの経験の若者世代への伝達を通じて生き甲斐がもたらされる。

一方、学生は、高度成長期にグローバルな活躍をした高齢者から仕事に取り組む活力を継承し、若者世代に未来を創造する活力や責任感が育まれ、育成されたグローカル人材による地域企業の高度サービス産業の展開が促される。この研究活動を通じて「超高齢化社会に立ち向かう大学」との認知が高まる。

地域に集積する活力ある高齢者の社会参画のプラットフォームとなり大都市郊外地域を活性化し、高度成長期の日本を支えた高齢者の志と活力を次世代へ継承することも、本学が果たす役割である。